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東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)138号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否を判断する。

1 成立に争いない甲第三号証(本願発明の特許出願公告公報。以下「明細書」という。)及び第四号証(昭和六〇年一一月二〇日付け手続補正書。以下「手続補正書」という。)によれば、本願発明は左記のとおりの技術的課題(目的)、構成及び作用効果を有するものと認められる。

(一) 技術的課題(目的)

本願発明は、外殻(以下「皮膜」という。)が成膜性脂肪族ポリイソシアナートの重縮合反応生成物である、マイクロカプセルの製法に関する(手続補正書第三頁第七行ないし第九行)。

界面重付加反応を利用するマイクロカプセルの製法は公知であり、その一方法は、重付加によつて相互に反応させることができる二成分を、相互に混合しない異なる液体中に溶解し、界面において重付加重合体を形成させるものであつて(明細書第三欄第四行ないし第一三行)、具体的には、分散相がカプセル内に包含させるべき材料(コア材料)および第一の成分から成り、連続相は分散相と混合しない液体から成つている安定な乳濁液を調整し、この乳濁液に(連続相に可溶な)第二の成分を加えることによつて、カプセル内に包含させるべき材料の分散粒子の周りに、重付加または重縮合による重合体の皮膜を長時間かけて形成させるものであり、この方法に適する成分の組合わせは、例えばジイソシアナート/ジオール、ジイソシアナート/ジアミン、ジカルボン酸クロリド/ジアミン、ジスルホニルクロリド/ジアミン又はホスゲン/ジアミンである(同第三欄第一六行ないし第三二行)。しかしながら、第二の成分を加えるときに壊変しないような安定な乳濁液として実際に使用できる反応成分は極めて少ない上、低分子量の反応成分は実質的に非成膜性であるから、大量の皮膜材料中にわずかなコア材料を封入させることができるにすぎないとの難点がある(同第三欄第三四行ないし第四四行)。

この難点を克服するために、非成膜性のポリイソシアナートの代りに、四〇〇~一〇〇〇〇の範囲の分子量を有するジオール又はポリオールによるそれらのポリイソシアナートの末端NCO基における反応生成物(NCO―プレポリマー)を使用する試みも行われ、これによれば安定な乳濁液の調整は容易であるが、完成したマイクロカプセルの皮膜の架橋密度が低下することが避けられず、短鎖低分子量のNCO―プレポリマーの使用によつて再び架橋密度を高めようとすると、今度は成膜能力がかなり低下するか全く消滅してしまう。のみならず、そもそもNCO―プレポリマーは遊離の単量体状のジイソシアナート又はポリイソシアナートを含有しているが、これらは高度の反応性を有し乳化することが困難であつて重付加反応を妨害する可能性があるし、揮発性があるので取扱いに注意が必要である。またNCO―プレポリマーから成る皮膜は、例えばクロロホルム、パークロルエチレン又は酢酸ブチルのように容易に揮発するコア材料に対しては、著しく高い透過性を示す難点を有する(同第四欄第一行ないし第三一行)。

本願発明の目的は、従来の方法が有するこれらの難点を解決したマイクロカプセルの製造方法を提供することに存する。

(二) 構成

本願発明は、前記目的を達成するために、その要旨とする構成、特にマイクロカプセルの皮膜が少なくとも一つのビウレツト基を含有する成膜性脂肪族ポリイソシアナートの反応生成物から成ることを特徴とする構成を採用したものである(同第四欄第三二行ないし第三五行、手続補正書第三頁第一六行ないし第四頁第一三行)。

マイクロカプセルの製造に適する接触的に活性な第三アミン又は同様に働く化合物は、イソシアナート反応に対する触媒として公知の種類の、任意の化合物である(明細書第七欄第三一行ないし第三四行)。

(三) 作用効果

本願発明の変性したポリイソシアナートと反応剤(reactant)との反応は連続的な操作を行うに十分なほど迅速であるから、高い〔容積/時間収率〕を達成することができ、ポリイソシアナートに良好な成膜能力と高い架橋密度を与える。したがつて、本願発明のマイクロカプセルは、揮発性が高いコア材料に対してもわずかな透過性を示すにすぎない(同第五欄第一七行ないし第二七行)。なお、ビウレツト基を含有する変性したポリイソシアナートは、取扱いが容易である(同第六欄第四行ないし第六行)。

2 一方、成立に争いない甲第五号証によれば、引用例には、水中で微小滴に乳濁させた疎水性液体を合成樹脂の皮膜で被覆してカプセルを製造する方法、すなわち、皮膜材料である多価イソシアネート(以下「多価イソシアナート」という。)を添加して溶解あるいはよく分散させた疎水性液体(コア材料)を、水中(又は、多価アミンを添加して溶解あるいはよく分散させた水中)に微小滴状に乳濁させ、両液体の界面において、多価イソシアナートと水(又は、多価イソシアナートと多価アミン)を反応させ、両液体に不溶性のポリユリア化合物を生成させて、疎水性液体の微小滴を被覆する方法が記載されており(第一頁左欄第一六行ないし第二九行)、皮膜材料である多価イソシアナートの一例としてデスモジユールNが挙げられ(第一頁右欄第三五行ないし第三九行)、また、疎水性液体は「本質的に水とは相溶しないものであつて、多価イソシアナートを溶解させ得るかあるいは良く分散させ得るもの」とされている(第二頁左欄第二行ないし第四行)。

そして、右「デスモジユールN」が本願発明の「イソシアナート基の一部をビウレツト基に変えることによつて得られる少なくとも一つのビウレツト基を含有するもの」に、引用例記載の発明の多価イソシアナートを添加して「溶解あるいはよく分散させた疎水性液体」が本願発明の「水又は水溶液と混合しない親有機物質を含んで成るコア材料」にそれぞれ相当し、両発明がマイクロカプセル製造のために採用している反応材料の分散及び乳化等の基本的態様に差異がないことは原告も明らかに争わず、両発明の相違点が審決認定の一点、すなわち本願発明がその処理過程において「重縮合反応を開始させる第三アミン若しくは塩基的に働く化合物を加え」ているのに対し、引用例記載の発明は触媒を添加していない点のみであることは、原告の自認するところである。

3 右相違点について審決は、周知例を援用して、多価イソシアナートの重縮合反応の促進等に第三級アミン等を用いることは本件優先権主張日前に周知であつたと判断している。

そこで、周知例を検討するに、成立に争いのない甲第七号証によれば、その第三二一頁第六行ないし第一二行には「イソシアナートの反応は一般に塩基性の条件で促進されるが、酸性ではことにビユーレツト生成、三量化反応などが著しく阻害される。(中略)イソシアナートの一般的な触媒は表4のごとく分類されるが、第三級アミン(中略)が広く用いられる。」と記載され(右「第三級アミン」を、以下「第三アミン」という。)、また第三二二頁表4(別紙表4参照)には、イソシアナートとの反応成分が「水」でありその生成結合が「尿素、CO2」であるイソシアナートの反応が示され、かつ、この反応には第三アミンが触媒として作用し得ることが明記されていることが認められる。そうすると、イソシアナートの反応であるイソシアナートと水との反応が触媒としての第三アミンの作用によつて促進されることは、本件優先権主張日前に周知の事項であつたことが明らかである。ちなみに、第三アミン等がイソシアナートの反応の触媒として公知であつたことは、前記のとおり本願明細書第七欄第三一行以下にも記載されているところである。

そして、引用例記載の発明の多価イソシアナートと水とを反応させて不溶性のポリユリア化合物を生成させる反応は、周知例記載のイソシアナートと水とを反応させて「尿素、CO2」を有する化合物を生成させる反応と同種のものであるから、引用例記載の発明のイソシアナート反応が周知の第三アミン等の触媒の使用によつて促進され、ポリユリア化合物の生成がより迅速に達成されるであろうことは、当業者であれば容易に予測し得た事項であると認められる。

4 もつとも、引用例には、原告が本願発明において副反応として生起すると主張する「カルボジイミド基の生成反応」については、何ら記載されていない。

しかしながら、周知例の別紙表4には、イソシアナート自身が反応成分となつて「二量化、三量化」し、イソシアナート自身の「二量体、三量体」が生成される反応が示されており、特に三量化反応について酸性条件下では著しく阻害されるが塩基性条件下では促進されることが記載されていることは前記のとおりである。このように、イソシアナート反応を特に酸性条件を採用して行う場合でない限り、その二量化あるいは三量化反応(すなわち「カルボジイミド基の生成反応」)は必然的に生起するものであると認められるところ、引用例第二頁左欄第二九行以下によれば、その実施例2の反応は特にカルボジイミド反応が阻害されるような酸性の条件下で行われているとは解されないから、引用例記載の発明においても「ポリユリア基の生成反応」と共に「カルボジイミド基の生成反応」もある程度までは生起しているであろうことは当事者ならば予測し得た事項であり、この点は原告も認めるところである。

そして、周知例の別紙表4によれば、イソシアナートの二量化あるいは三量化反応に第三アミンが触媒として作用し得ることも本件優先権主張日前の周知事項であつたと認められるから、結局、引用例記載の発明において生起していると考えられる「ポリユリア基の生成反応」及び「カルボジイミド基の生成反応」を促進させマイクロカプセルの皮膜形成を迅速化するために、周知であつた第三アミンを触媒として使用することは、当業者ならば容易に想到し得た事項というほかはない。

5 なお、原告は、本願発明は第三アミン等の触媒がユリア基の生成反応を促進するため皮膜を構成する重合反応生成物が短時間内によりよく架橋されるとの効果を奏すると主張する。

しかしながら、右効果は、イソシアナート反応を促進する作用を有する第三アミン等の触媒がもたらすべき効果そのものであるから、当業者が予測し得た事項であることは当然であつて、原告が援用する甲第一一号証ないし第一五号証(ゲルト ヤブス作成の宣誓供述書)の内容も右予測の域を超えるものではなく、ほかに、本願発明が第三アミン等の触媒を採用したことによつて同触媒固有の効果以外の、予測し得ない格別の効果を奏し得ることを認めるに足りる証拠はない。

したがつて、本願発明の効果の顕著性をいう原告の主張は理由がない。

6 以上のとおりであるから、本願発明と引用例記載の発明との相違点は当業者が必要に応じて実施し得る事項であり、それによつて得られる効果も当然に予測し得る範囲内であるとした審決の認定及び判断は正当であつて、審決には原告主張の誤りはない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとする。

〔編注〕本願発明の要旨は左のとおりである。

ヘキサメチレン―1,6―ジイソシアナート、m―キシリレンジイソシアナート、4,4´―ジイソシアナートジシクロヘキシルメタン又はイソホロンジイソシアナートを、水、第三ブタノール又は蟻酸と反応させ、イソシアナート基の一部をビウレツト基に変えることによつて得られる、

少なくとも一つのビウレツト基を含有し、随意、二又は三官能性連鎖延長剤との反応で変性されてもよい、成膜性脂肪族ポリイソシアナート、または不活性溶剤中におけるその溶液を、

水又は水溶液と混合しない親有機物質を含んで成るコア材料中に溶解、又は分散せしめ、

生成する溶液又は分散液を水中に乳化せしめ、

重縮合反応を開始させる第三アミン若しくは塩基的に働く化合物を加え、取得する反応混合物をマイクロカプセルが生成するまで混和し、かつ、マイクロカプセルを単離することを特徴とする、マイクロカプセルの製造方法。

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